2015年11月19日

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難民コストは吸収可=ドイツ5賢人委、欧州中銀には金融緩和の再考促す

難民コストは吸収可=ドイツ5賢人委、欧州中銀には金融緩和の再考促す

政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は11日、2015年版『経済鑑定書』をメルケル首相に提出した。今回は難民の急増とギリシャの財政破たん危機に言及。この2つの問題に焦点が当てられることでドイツが抱える経済上の課題が脇に追いやられているとして、福祉・分配の拡充を推し進める政府に対し経済効率向上への政策転換を促した。難民受け入れに伴うコストについては財政的に吸収できるとの見方を示した。

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5賢人委は社会の高齢化、グローバル化、デジタル化の進展に対応できる枠組み条件の創出をドイツ経済の根本的な課題と位置づけたうえで、急増する難民の統合とユーロ圏の金融リスク対策を新たな課題として取り上げた。
 
難民急増についてはまず、コスト上の問題に言及。同コストが今年は59億~83億ユーロ、来年は90億~143億ユーロに上るものの、財政が安定していることから吸収しきれるとの見方を示した。ただ、難民認定手続きにいたずらに時間を取られる現状の改善と、労働市場への速やかな統合が前提になるとしており、これらの点で後手に回るとコストが膨らむと指摘している。
 
難民認定を受けた外国人のうち20年までに就職できる人は最大50万人、最低25万人と予想。失業者となる難民は同30万~35万人に上るとみている。失業者となった難民への手当(求職者基礎給付金=いわゆる「ハーツ4」=)は税金で賄われるため、その数が多ければ多いほど国の負担は増えることになる。
 
難民を労働市場に統合するためには就労規制の緩和が必要だと指摘した。1月に導入された全国・全業界一律の最低賃金は難民から就労の機会を奪う懸念があるとして制度の柔軟化を促している。
 
難民急増は住宅需要を大幅に押し上げる。同委はこれを踏まえ、住宅投資を促進する枠組み条件の整備が必要だとして、6月に施行された家賃上昇抑制ルール(ミートプライスブレムゼ)の廃止を政府に要求した。
 
一方、ギリシャの財政危機などユーロ圏の金融リスクへの対策としては加盟国の財政破たんルール策定を提言した。債務整理を一定の規則に基づいて行うことでユーロ圏経済が不安定化する事態を回避できるとしている。
 
5賢人委は欧州中央銀行(ECB)の金融政策にも言及した。ECBが3月に開始した量的金融緩和を受けて◇加盟国が構造改革を先送する◇新たなバブルを生む――などのリスクが懸念されると指摘。価格変動が激しいエネルギー、食品・アルコール・たばこを除いたユーロ圏の基礎インフレ率はここ数カ月、およそ1%の水準で推移し、10月にはやや上昇したことを踏まえると、ECBは金融緩和の縮小を検討すべきだとの見解を示した。
 
ECBのドラギ総裁は10月、ユーロ圏のデフレ懸念と新興国経済の先行き不安に対応するため、追加金融緩和を12月の理事会で検討する意向を表明しており、5賢人委はこれをけん制した格好だ。
 
photo by Ilias Bartolini on flickr

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