2016年2月10日

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EU大統領が英離脱回避の制度改革案提示、移民の社会保障制限を容認

EU大統領が英離脱回避の制度改革案提示、移民の社会保障制限を容認

EUのトゥスク大統領(欧州理事会常任議長)は2日、英国の離脱回避に向けたEUの制度改革案を提示した。英国の要求に沿って、移民に対する社会保障給付の制限を条件付きで認めることなどを盛り込んだ内容。18、19日のEU首脳会議での合意を目指し、調整を進めることになる。

 

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英国はEU離脱の是非を問う国民投票を2017年末までに実施することになっている。EU残留を目指すキャメロン首相は、移民流入急増などを受けて高まっている国内の反EU勢力の不満を抑えるため、同国が望む方向でのEUの制度改革を進めた上で、国民の支持を取り付けたい考えで、昨年11月にEUに要求を突きつけていた。加盟国がEUからの移民に対する社会保障給付を4年間は制限できるようにするほか、◇加盟国の議会の権限を強化することで、英国などEU統合の「深化」を望まない国が深化に関するルールの適用を除外される権利を確保する◇英国などユーロを導入していないEU加盟国が不利な扱いを受けないようにする――などを求めている。
 
トゥスク大統領が提示した案は、この要求に反発する国と英国の妥協を図るもの。EU域内の人の自由な移動を認める大原則に反するとして中東欧諸国が猛反発し、最大の焦点となっている事実上の移民制限については、加盟国で域内からの移民流入が急増し、国家の福祉システムが対応できなくなる場合に限って、緊急措置として一部の社会保障給付を制限できるようにする。ある移民が入国してから4年間は制限を認めるというものだ。ただし、これを発動する際は、対象国が必要に迫られていることが確認され、欧州委員会と他の加盟国による承認が必要となる。
 
同問題をめぐる英国の要求を受け入れる場合は、EUの基本条約を改定する必要があるが、緊急措置とすることで、この障害を回避する。中東欧諸国の反発を和らげたいという意図もある。
 
さらに改革案では、EUの法案に加盟国の議会の55%以上が反対すれば、これを拒否できる「レッドカード制」導入も打ち出した。各国議会の権限が、法案の見直しを要求することしかできない現行の「イエローカード制」と比べて強化されることになる。
 
また、英国など非ユーロ参加国が、ユーロ圏の金融関連などの政策決定に異議を唱えることができる制度も導入する。ただ、あくまで協議による決着が目的で、非ユーロ参加国の拒否権は認められない。緊急の案件は同制度の適用外となる。このほか、英国にEUの統合深化から除外されることを認める権利を与えることなども盛り込んだ。
 
キャメロン首相は同提案を「確かな前進だ」と評価し、これが実現するなら国民にEU残留を呼びかけることができるとの見解を表明した。しかし、国内の反EU派は改革が不十分と批判しており、与党・保守党内でも不満が出ている。また、焦点の移民への社会給付制限に多くの国が反対するのは確実で、しかも同措置を何年間継続できるかも固まっていないなど、課題は多い。キャメロン首相は各国首脳と協議し、調整を進めた上で首脳会議に臨み、決着させたい考えだが、合意できるか不透明な情勢だ。
 
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