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反移民を掲げるドイツ新興政党AfDが躍進、得票率24%の州も

 
失業者・労働者で高支持率
AfDは2013年2月、ギリシャなど南欧諸国の財政破たん危機を受けて結成された党で、当初は反ユーロを掲げるリベラル色の強い政党だった。だが、同党の人気が高いことを受けて排外的な考えを持つ党員が大量に入党し急速に右傾化。リベラル派の代表格であったルッケ党首(ハンブルク大学教授)は昨年、離党へと追い込まれた。
 
AfDは14年の欧州議会選挙で初の議会進出を果たした。現在はザクセン、ブランデンブルク、テューリンゲン、ハンブルク、ブレーメンの5州でも議会に議席を保持している。
 
難民の流入が昨年から急増していることが強力な追い風となっており、同党の支持率は時間を追うごとに上昇。今回の3州議選ではザクセン・アンハルト州で得票率24.2%、バーデン・ヴュルテンベルク州で同15.1%、ラインラント・ファルツ州で12.6%を獲得した。
 
AfDへの支持率は3州とも失業者、労働者層で高く、世論調査機関インフラテスト・ディマップの調べによると、ザクセン・アンハルトでは失業者の36%、労働者の35%が同党に投票した。これらの社会層では社会保障の受給者が多いことから、難民が増えると‘割りを食らう’との懸念が強く、これが反移民感情につながっているもようだ。
 
東部州のザクセン・アンハルトでAfDの得票率が特に高かったのは貧困層が多いほか、「過去との取り組み」でも西部地区と大きな違いがあるためだ。旧西ドイツでは戦後、ナチスの蛮行に対する市民レベルの反省が漸次、深まり、排外主義への警戒感が強まったのに対し、旧東ドイツではナチス批判が社会主義政権主導の表面的なものにとどまり内面化しなかった。このため排外主義的な主張を受け入れやすい土壌があり、東部地区ではネオナチのドイツ国家民主党(NPD)が以前から州議会に進出している。
 
戦後ドイツには政党地図に安定的な足場を築くフランスの国民戦線のような極右政党が存在しない。AfDがそうした政党に発展するかは現時点で定かでないが、インフラテスト・ディマップによると、AfDに投票した有権者のうち理念・政策への共鳴を理由とする人は21%に過ぎず、70%は既存政党への不満が理由だと回答した。AfDに問題解決能力がないとみる同党の投票者は93%に達しており、難民問題が一段落すれば、支持率は急速に低下する可能性が高い。
 
軸足のブレが痛手に
緑の党は11年に行われた前回のバーデン・ヴュルテンベルク州議会選挙で得票率を11.7%から24.2%へと倍増させ、中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)に次ぐ2位に浮上。3位となった中道左派の社会民主党(SPD)と連立を組んで、クレッチュマン氏を首相とする政権を樹立した。ドイツで緑の党の州首相が誕生したのはこの時が初めて。
 
11年選挙は直前に起きた福島原発事故が同党の追い風になったという事情がある。このため、クレッチュマン政権の業績や姿勢次第では今回の選挙で大敗する可能性もあったが、実際には得票率を30.3%へと高め、CDU(前回の39.0%から12.0ポイント減の27.0%)を抜いて第1党に躍進した。
 
同州は独自動車産業の中心地であるシュツットガルトを抱えている。このため、クレッチュマン政権の発足当初は環境規制強化への懸念が経済界から出ていたが、同首相は産業重視の柔軟な政策を打ち出すなどして州内の幅広い支持を獲得することに成功した。
 
難民問題をめぐってはメルケル首相(CDU党首)を一貫して支持。メルケル首相の政策に距離を置いたCDUのヴォルフ州首相候補とは奇妙にねじれた立ち位置となったが、これがプラスに働いた。
 
選挙直前に世論調査機関ヴァーレンが実施したアンケート調査ではメルケル首相の難民政策を支持する有権者が同州で57%に達し、不支持の38%を大きく上回っていたのだ。不支持派の票はAfDの躍進をもたらしたものの、過半数には届いておらず、他の2州でも支持派が不支持派を上回った。
 
ラインラント・ファルツ州のSPDもバーデン・ヴュルテンベルク州の緑の党と同じ構図でCDUに勝利し第1党の地位を堅持した。SPDのドライヤー州首相はメルケル首相の難民政策を明確に支持。CDUのクレックナー州首相候補はメルケル首相との一体性を強調する一方で難民受け入れの制限を主張しており、軸足がぶれていた。
 
連立の選択肢狭まる
AfDが躍進したことで安定政権を樹立することはこれまで以上に難しくなった。AfDは議席数が多いにもかかわらず、他の政党は連立相手とすることを明確に拒否しているためだ。急進左派の左翼党もCDUと自由民主党(FDP)からは連立を拒否されている。
 
ザクセン・アンハルト州ではAfDと左翼党の得票率が合わせて40.5%に達した。一方、これまで同州の政権を担ってきたCDUとSPDは得票率が計54.0%から40.4%へと大幅に低下。過半数議席に裏打ちされた政権を樹立するためには緑の党も含めた3党が連立を組む以外に選択肢がない状況となっている。しかも3党の合計議席数は過半数ライン(44)をわずかに上回る46にとどまる。
 
バーデン・ヴュルテンベルクとラインラント・ファルツでもこれまで連立政権を担ってきた緑の党とSPDは過半数割れとなっており、新政権の樹立は難航の恐れがある。
 
来年秋には連邦議会(下院)選挙が行われる。難民問題が長引きAfDの高い支持率が続くようだと、国政レベルでも連立政権の選択肢が狭まる懸念がある。
 
今回の選挙結果に対し経済界からは懸念の声が出ている。政策理念の大きく異なる政党が連立政権を打ち立てると、与党内の意見が対立し政策停滞の可能性が高まるためだ。また、排外主義の高まりは国外からの投資にブレーキをかける恐れがあり、独雇用者団体連合会(BDA)のクラーマー会長は「わが国は国際的なネットワークに依存している」と指摘。AfDのような政党が選挙でさらに議席を伸ばすようだと国際社会でのドイツ評価が低下し輸出に影響が出ると懸念を表明した。
 
photo by Metropolico.org on flickr