2016年7月11日

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2016年タイの経済成長、サービス・美容・不動産が狙い目か

2016年タイの経済成長、サービス・美容・不動産が狙い目か

親日国家として知られ、ビジネスにおいても日本と関係の深いタイ王国。他の東南アジア国家と比較してもインフラ環境は整っており、進出先としてメリットは多い。一方で人口ボーナスは2010年に終わり2020年前後からは人口減少の可能性も指摘されており、加えて大洪水の後引く影響や政治リスクも存在する。それらの点を加味したうえでの2016年の経済予測を分析する

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タイの2016年第1四半期の実質GDP成長率は、前年比+3.2%。ASEAN諸国と比較すると緩やかな伸び率でありながらも、8四半期連続の成長となっている。成長の内訳は、政府の景気刺激策に伴う政府支出(同+8.0%)に加え、外国人来訪者数の予想を上回る増加を反映してサービス輸出(同+18.8%)が大きく伸びた。干ばつの影響が懸念されていた農業部門も、エビ生産の回復で落ち込み幅が縮小した。一方、弱かったのは個人消費(同+2.3%)と民間投資(同+2.1%)。個人消費が精彩を欠いた原因は、農家所得の減少や非農業部門賃金の伸びが緩やかだったこと。民間投資については企業収益の伸び悩みが加速を妨げた(BTMU Thailand Monthly 2016 年6月号)。

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その他具体的な数字は以下の通り。タイ中央銀行の月例経済報告によると、5月の工業生産指数(以下MPI、速報値)は前年同月比2.6%上昇。業種別のMPIは「食品、飲料」-3.1%、「自動車」+19.5%、「ゴム、プラスチック」+5.4%、「集積回路、半導体」-2.8%、「繊維、アパレル」-22.2%、「化学」+1.3%、「セメント、建材」-3.5%、「電気製品」+17.6%、「石油」-0.4%、「ハード・ディスク・ドライブ(HDD)」-19.9%。さらに5月の民間消費指数(PCI)は前年同月比+5.3%、民間投資指数(PII)は+1.5%。名目農業所得は前年同月比+6.7%。農業生産+0.3%、農産物価格は6.4%上昇。外国人旅行者数は前年同月比+7.6%の247.7万人、輸出は前年同月比-3.7%の175.5億ドル、輸入は-0.2%の140.4億ドル。経常収支は22.3億ドルの黒字となった(newsclip 2016年7月3日)。
 
内需刺激策と観光はタイ経済を下支えする大きな要素であり、もう一歩の成長が望まれるのは輸出の持ち直しとそれによる企業の収益改善、それを受けた投資マインドの回復や非農業部門労働者の所得改善を実現といえる(BTMU Thailand Monthly 2016 年6月号)。
 
◆ 楽観できない中期予測
上記の数字を見ていると、現状はまずまずの期待感といえそうだが、中期予測になると一転、「楽観できない」との見方が増える。ペースを上げる少子高齢化と是正されない所得格差に直面しつつも、政府による早期の対策は期待できず、このままでは生産年齢人口減少の影響を免れずに成長率は現状の+3%強から2020年には+2%台に落ち込む可能性も指摘されている(みずほ総研論集2014年Ⅲ号)。ただし同論集では、2020年をさらに過ぎると改革が実を結び、さらにミャンマーやラオス、カンボジアといった周辺国の立ち上がりから相互補完性も機能して、国際分業制の構築からタイ・プラスワンの経済連携への扉が開く可能性があるとの予測もなされている。
 
また、タイの魅力として挙げられているインフラについても周辺国の整備が進んでおり、加えて人件費の上昇や労働者不足もあって、今後は海外からの投資が周辺国へシフトするのではとの指摘もある。このままでは「中進国の罠」に陥るとして、タイ政府は先端産業の誘致を行い、産業構造を高付加価値化しようとしているが、理系人材の不足がボトルネックとなりハードルは高いという見方である(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「タイ経済の現状と今後の展望」2016年5月)。
 
◆ 今、狙うべき業界や注目すべき事業は?
現状まずまず、中長期は油断を許さない、というのが大方の見方のようだ。では、今この瞬間、現地ではどんなものが流行し、どんな業種が伸びている、あるいは伸びそうなのだろうか。
 
【6つのサービス業】
JETROは2016年1月、タイ商務省国際貿易振興局(DITP)および経済同友会とともに「日タイ・サービス産業経営者セミナー」をバンコクで開催した。そこでタイのスウィット商務副大臣が「タイのサービス産業と日本への期待」と題した講演を行い、タイが重視しているサービス分野と日本への期待を表明。その概要は、「これまでは日本からの製造業への投資が多かった日タイ関係だが、21世紀に入り知識集約型の経済になったことから、サービス経済への投資の移行が起きている。日本が高齢化社会をロボット産業など関連サービス創造の機会に変えたように、タイでも高齢化が社会の負担とならず、高齢者が生き生きと生活できるようにしていきたい」というものだ。現在、タイのサービス貿易では観光業が7~8割を占めているが、この傾向から抜け出すために、タイ政府は「ウェルネス、医療サービス」「物流」「ホスピタリティーサービス」「エンターテインメントおよびコンテンツ」「教育」「専門サービス」の6分野に注力してサービス産業を育成していくとしている(JETRO「通商弘報」2016年2月12日)。
 
【美容業界が好調】
タイでは今、美容が好調だ。日本からのお土産としても日本ブランドの高級化粧品が喜ばれるといった報告は多いが、タイ化粧品製造者協会によると、タイの化粧品・美容製品産業は2015年時点で前年比8~10%増、およそ1兆円規模になると予測されていた。タイ国内だけでなく、近隣国の健康や美容への関心が高くなっていることも大きな成長の要因だ。一方、タイには化粧品や美容製品の原材料となる自然素材が約20万種ほどもあるとされていながら、現在は原材料に使用する自然素材の8割を輸入で賄っているという(SankeiBiz 2015年5月)。化粧品・美容製品開発にもチャンスありと言える。
 
【日本食ブーム】
JETROが2013年に行った調査によると、タイ人の好きな外国料理第1位は日本料理(66.6%)、2位は中国料理(12.8%)だった(バンコク在住500人に調査)。数年前から報告されているこのブーム、2016年になってもまだ続行中のようだ。古くからあるラーメン店に加え、その他の数多い日系外食チェーン店も好調。タイでは若者がスパイスや濃い味付けよりも薄味でヘルシーな食べ物を好む傾向も指摘されており、今後進出するなら定番のラーメンや牛丼、定食以外でも可能性があるかもしれない。ちなみに同調査で、日本料理はバンコクの他、ホーチミンとジャカルタでも人気第1位だった。
 
【不動産投資】
こちらも昨今叫ばれているとおり、タイでは不動産バブルともいえる状況が起こり、今なお人気は続いている。ただし、中心地はあまりに価格が上がったため、現在は中心部から周辺~ローカルエリアにまで選択肢が広がっているようだ。タイでは今後10年あまりで鉄道網が飛躍的に拡大される予定で、その規模は実に約5倍。どこに注目すべきか目移りしそうだ。「日本人駐在員の方が住むスクンビットエリアの中でも、ラマ9世駅付近とスクンビット東側」(Home’s不動産投資コラム)や、地の利のいい中古コンドミニアム(タイ不動産購入ガイド タイ大家)など、具体的な地名や写真をあげた現地リポートを読み込んで、これから「来る」エリアを探すのも面白いだろう。
 
【スタートアップの地としての可能性】
2016年6月、日本人が2013年にタイで創業したFinTechスタートアップ企業Omiseがタイ発のオンライン決済システム「Omise Payment」を日本に上陸させ、さらに2018年までに20カ国へ展開するというニュースが報じられた。Omise Paymentは数行のコーを実装することでECサイトに決済機能を追加できるサービスで、最短1週間での導入が可能。「EC事業者にとっては手軽に多様な決済手段を用意でき、ビジネスチャンスを増やせる利点がある。先行してサービスを提供してきたタイでは、4000近い事業者が使う」という(日経コンピュータ「タイ発のオンライン決済が日本上陸、2018年までに20カ国展開へ」)。タイでのスタートアップが功を奏し、世界への扉を開いた格好だ。
 
◆ タイビジネスで注意すべきこと
現段階では魅力の多いタイでのビジネスだが、気を付けたいこともある。特に専門家が「落とし穴」として注意を喚起するのは、厳しい外資規制にまつわる登記手続きだ。
 
・BOI投資奨励制度の複雑さ:BOIの投資奨励制度を利用すれば独資が可能なのは間違いないのだが、その対象は投資奨励の許認可を得た事業のみで、その後に開始した別の事業には及ばない。
・“製造業”の定義①:受託製造やOEM(相手先ブランド)は、顧客の指定に合わせて生産を行う“サービス業”に該当すると解釈されており、“製造業”(=外資100%での運営が認められる)には含まれない。
・“製造業”の定義②:販売後の保守・修理は製造業の一環だが、特定の場合に外資の参入が制限される。貸付行為も外資規制の対象であるため、グループ会社間の貸付実行の際にも許認可の取得が必要になる。 
 
コンサルタントのアドバイスが「間違ってはないけれど厳密にはアウトになってしまう」場合もあるということだ。法的根拠を細かく追求するなどの注意が必要だろう。その他にも「在タイ日系企業が見落としがちな外資規制対象業務」として、輸入販売業務・受託製造及びOEM製造・アフターサービス及びメンテナンス・ローン提供及び保証担保提供・土地建物の賃貸」が挙げられている。(以上すべて日刊工業新聞「日系工場が多いタイの意外な落とし穴」)
 
2020年前後から始まる高齢化に目を配り、落とし穴にはまらないよう入念な姿勢でビジネスチャンスをつかみ取りたい。
 
(参考文献)
・BTMU Thailand Monthly 2016 年6月号
・newsclip
・日本貿易振興機構 農林水産・食品部 農林水産・食品調査課「日本食品に対する海外消費者アンケート調査 -6都市比較編-」2014年3月
・みずほ総研論集2014年Ⅲ号「タイ経済の中期展望~2020年までは楽観できない見通し~」
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング「タイ経済の現状と今後の展望~短期的には危機の可能性小だが、中長期的には停滞の懸念もあるタイ~」2016年5月30日
・Home’s不動産投資 田中圭介の不動産投資コラム シリーズ連載: ASEAN地域の海外不動産投資の現状
・日経コンピュータ 「タイ発のオンライン決済が日本上陸、2018年までに20カ国展開へ」2016年6月15日
・JETRO「通商弘報」2016年2月12日「サービス産業を重視し日本に期待-バンコクで日・タイ経営者セミナーを開催-」
・日刊工業新聞「【連載】アジアの見えないリスク#7日系工場が多いタイの意外な落とし穴」2016年2月12日
・SankeiBiz「タイ、化粧品・美容製品産業が好調 15年売上高、1兆円予測」2015.5.18

 
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