2017年1月26日

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欧州経済は「英離脱」と「トランプ」のダブルパンチ!? 企業は生産・物流の見直しが必須?

欧州経済は「英離脱」と「トランプ」のダブルパンチ!?  企業は生産・物流の見直しが必須?

欧州経済に大きな影響をもたらす出来事がこの1週間で2つあった。ひとつは欧州連合(EU)単一市場から完全離脱するという英メイ首相の「ハードブレグジット(強硬離脱) 」方針表明、もうひとつはトランプ米大統領の就任だ。

両者は経済・社会のグローバル化の進展に対する反動という点で共通しており、世界各国の自由貿易協定(FTA)締結状況などをにらんで生産・物流体制を構築する国際的な企業は戦略の大幅な見直しを迫られる可能性がある。グローバル化の恩恵を強く受けるドイツにとっては今後予想される大波を乗り切ることが課題となる。

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メイ首相は17日、ロンドン市内で行った演説で、EUとの関係をいったん白紙化し国家主権を回復したうえで、EUと包括的なFTAを結ぶ方針を打ち出した。
英国内にはEU単一市場へのアクセスを維持できる「ソフトブレグジット(穏健離脱)」を求める声が根強くあるものの、単一市場にとどまるためにはこれまで同様、EUからの移民を無制限に受け入れなければならない。EU移民の流入を制限する一方で単一市場へのアクセスは保つという「いいとこ取り」に対してEU側が拒否の姿勢を明示しているためだ。
 
EUからの離脱を問うた昨年6月の国民投票では移民の流入制限が最大の争点となっており、民意を尊重して移民流入に歯止めをかけるためにはハードブレグジット以外に選択肢がなかった。
 
メイ首相は今回の演説で、EUだけでなくトルコなど一部のEU非加盟国も加盟する「EU関税同盟(EUCU)」についても正加盟国のステイタスを放棄し、準加盟国となる考えを表明した。
 
EUCUでは域内の税関手続きが廃止される反面、加盟国には第3国からの輸入品に共通の関税を課すことが義務づけられている。経済競争力を維持・向上させるために今後、世界の多くの国々とFTAを結ぶ方針の英国にとってこのルールは大きな障害となることから、メイ首相は同ルールの適用除外をEUに認めさせる考えだ。
 
ただその場合は、仮に英国がEUとFTAを締結し英国製品の対EU輸出が非関税扱いになっても、これらの製品を対象にEU加盟国の税関検査が行われることになる。第3国の製品が英国製品と偽ってEUに非関税で持ち込まれる恐れがあるためだ。EUから英国への輸出も同様の扱いとなる。
 
これは英国で事業を展開するメーカーにとって、対EU貿易の手間と時間がかさむことを意味し、同国に工場を持つトヨタ自動車の内山田竹志会長は競争力低下の懸念を示した。大陸欧州から英工場に輸入する部品の物流速度が税関審査で低下すれば、ジャストインタイム生産システムの運営コストは膨らむことになる。
 
これは英国で小型車「ミニ」を生産する独BMWにも当てはまる問題だ。独商工会議所連合会(DIHK)のトライアー副専務理事は英首相の方針表明を受け、ドイツ企業の対英直接投資は今後、大幅に減るとの見方を示した。ハードブレグジットで英国が受ける経済的な打撃はEUよりもはるかに大きいとしている。
 
 
金融・自動車を重視

EUは域内の人、資本、モノ、サービスの自由な移動という「4つの自由」を中核的な政策と位置づけている。
英国はEU離脱によってこれらの順守義務がなくなるものの、資本、モノ、サービスの3つについてはEUと今後締結するFTAを通して自由移動の権利をできるだけ保持したい考えだ。
メイ首相は自動車の輸出や国境を超えた金融サービスなどいくつかの分野でEU域内市場ルールをEUと英国のFTAにそのまま採用することは、FTA交渉をゼロから始めるよりも有意義だと述べた。自動車と金融は英国の主力業界であり、その取扱いはEUとの交渉で大きな焦点になるとみられる。
 
ただ、ドイツやフランスなどのEU加盟国は英ロンドンから銀行などを誘致し金融競争力を高めることを狙っており、金融機関が英国内の拠点からEU域内での事業を将来も無制限で行えることをEU側が受け入れるかは不透明だ。
 
メイ首相はこうした事情を念頭に置いたうえで、EU域内市場へのアクセスが拒否された場合、英国は経済システムを自由に変更すると発言。法人税率を引き下げてEUに不利益をもたらす考えを示唆した。
 
 
米のTPP離脱は欧州のチャンス
 
トランプ大統領は20日就任した。国内雇用の拡大を経済政策の中心に置く同大統領は23日に財界人と会談。国外に生産移管する企業には極めて高率な“懲罰関税”を課す半面、国内で事業を行う企業には低税率と大幅な規制緩和の恩恵を与える“アメとムチ”の姿勢を改めて強調した。
 
自由貿易については国内雇用に悪影響をもたらすとして反対しており、すでに環太平洋経済連携協定(TPP)離脱の大統領令に署名した。北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し方針も打ち出している。今後カナダ、メキシコと行う同見直し交渉で期待する成果が出なければ、NAFTAから離脱する考えだ。
 
こうした姿勢に対しドイツ政府はまだ具体的な対応策を打ち出していないものの、ガブリエル経済相は『ハンデルスブラット』紙のインタビューで、TPPからの米国の離脱は欧州にとって大きなチャンスだと指摘。独・欧州はこの機会を活用してアジアで経済的なプレゼンスを強化すべきだと述べた。トランプ大統領の保護主義に関しては米国経済に悪影響をもたらすとみている。
 
エコノミストも同様の見方で、ハンブルク大学のトーマス・シュトラウプハール教授は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、同大統領の「米国第一主義」は短期的に成果を上げるものの、長期的には成功しないとの見解を示した。
 
国外製品に高額関税を課す保護主義政策が実施された場合にドイツ企業が受ける影響については、乗用車などの消費財メーカーで大きいものの、機械などの投資財メーカーでは小さいと指摘した。米国メーカーが仮にドイツ製機械の使用を止め米国製に切り替えれば品質やコストの面で競争力が弱まるとみている。
 
ソース:http://fbc.de/sc/sc39189/

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