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2018年の香港経済、リスクは不動産

 
一帯一路で中央と協力措置
 
林鄭長官に接見した習主席は共産党大会(19大)の報告に盛り込まれた「香港が国家発展の大局に融合する」ことが香港発展の明確な方向性と指摘。李首相も「特区政府が民生問題解決に新たな一歩を踏み出し、国家の発展戦略への呼応に努めている」と称賛し、特に粤港澳大湾区の建設で国家の関連部門と積極的につながりをつくっていると評価した。
  
職務報告に先駆けた14日、林鄭長官は国家発展改革委員会の何立峰・主任と「香港が『一帯一路』建設に全面的に参入・協力するのを支援する措置」に調印した。同措置では①金融・投資②インフラ施設・海運サービス③経済交流・協力④民心の疎通⑤粤港澳大湾区の建設推進⑥マッチング・争議解決サービス強化——の6大分野で具体的な提案を網羅。香港を通じて「一帯一路」建設のための資金調達ルートを提供するほか、香港の若者が「一帯一路」地域の中資系企業で実習する機会を増やすことなどが講じられている。
 
林鄭長官は昨年12月8日に開催された「香港経済峰会2018」で講演し、「今年の香港経済のパフォーマンスは力強く、多くの経済指標が底を打った」と指摘。1~9月の輸出伸び率は8.5%と大幅な回復を見せ、小売り売上高伸び率は5.6%に反発し、来港者数も伸びを回復、失業率は3%で物価上昇率は1.4%とともに低い水準を維持していることを挙げた。第3四半期の域内総生産(GDP)伸び率が3.9%だったことを考慮して「今年通年のGDP伸び率は3.7%以上となり、過去10年平均の2.8%を上回る」との見込みを示した。
 
また林鄭長官は香港が西側先進国と同様に2%の経済成長が妥当という見方には甘んじないと断言し、「香港の持つ1国2制度の優位性、中国本土の広大な市場と発展の機会が香港経済発展の強力な後ろ盾となる」と述べ、人民元オフショア市場、粤港澳大湾区、一帯一路といった国家政策が引き続き香港経済を支えると指摘した。
 
国際通貨基金(IMF)は昨年11月29日、香港訪問後のリポートを発表し、香港のGDP伸び率を17年が3.5%、18年が2.5%と予測。17年の予測は特区政府が先に発表した3.7%を下回る。香港は「一帯一路」と「粤港澳大湾区」の推進による恩恵は受けるものの、外的要因や地場の全体的リスクから経済は依然として下振れ傾向にあると指摘した。香港が直面するリスクとして①住宅価格の調整②世界の金融引き締め傾向③中国本土の経済調整の混乱④先進諸国の保護主義傾向——の4つを挙げ、特に住宅価格は1~9月に15%上昇し実質以上に高く評価されているとみる。ひとたび価格調整に混乱を来せば逆資産効果による消費減退の悪循環に陥って経済成長の減速を招くため、現行の不動産市場の過熱抑制策を維持すべきと提唱した。
 
香港貿易発展局(HKTDC)は昨年12月18日、輸出の景況を表す最新の輸出指数とともに18年の貿易見通しを発表した。HKTDCの関家明・研究総監は「欧米伝統市場とアジア新興市場の経済が安定成長を見せている。今年の良好な輸出の勢いは来年まで続くとみられるが、今年の基数が高いため来年の輸出の成長ペースは鈍化するだろう」との見方を示した。17年通年の輸出伸び率は総額で8%、貨物量で6.2%の見込みだが、18年は総額で6%、貨物量で4%と予測している。
 
 
住宅相場は10%上昇
 
特区政府差餉物業估価署が発表した昨年10月の住宅価格指数は342.4で、9月の340.6から0.53%上昇。19カ月連続の上昇となり、過去最高を更新。19カ月の累積伸び率は26.16%。1~10月では11.39%上昇した。返還バブルのピークである1997年10月の172.9に比べると98%も高い。
 
不動産代理の中原地産は昨年12月7日、不動産市場の見通しを発表し「18年の住宅価格は引き続き上昇し、通年で10%上昇する。ただし17年通年の17%に比べると伸びは小さい」と予測。経済の見通しが良好であることを反映して今年も銀行の資金は潤沢であるため、引き続き優待住宅ローンを打ち出して住宅市場を支えるとみる。ただし米国の利上げによる影響や、住宅価格のこれまでの累積伸び率が相当に大きいことから昨年の上昇幅には及ばないという。また新築住宅物件の取引量は昨年は約1万9000件だったが、今年は約5%増加して約2万件に達し、過去14年で最高になると予測。取引総額も昨年の2400億ドルから今年は2600億ドルに増加し過去最高となる見込みだ。
 
同じく不動産代理の美聯物業は、低金利環境の継続、両親による購入支援、中国本土からの移住者による新たな購買力の3要素が住宅市場の伸びを支え、18年は通年で5~10%上昇すると予測。全体的な不動産取引登録は8万6000件、取引総額は7500億ドルに達するとみている。
 
不動産コンサルタントでは、クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドが18年上半期に中小型住宅は10%上昇、高級住宅は10~15%上昇と予測。香港経済の状況は理想的で失業率は過去最低の水準を維持しているため、急速な利上げがない限り住宅価格への影響は限定的とみる。ジョーンズ・ラング・ラサールは18年通年で中小型住宅が10%上昇、高級住宅が10~20%上昇、賃貸料は0~5%下落すると予測。400万ドル以下で購入できる物件はさらに減少し、将来的には600万ドルでやっと小型住宅が購入できる程度との見方を示した。
 
不動産代理の香港置業は昨年12月初め、ネット上で569人を対象に不動産購入意欲を探るアンケート調査を行った。「今後1年に住宅を購入する意思があるか」との問いに42%が「ある」と答え、10月半ばの同様調査での23%から拡大。40%余りは実用面積431~752平方フィートの物件を購入するつもりで、39%は満足な住宅を購入するには500万~699万ドルが必要との認識を示した。同社は林鄭長官の施政報告によって住宅政策が明りょう化したため市民の購入意欲回復につながったと分析している。ただし迫り来る利上げリスクへの考慮いかんによっては経済・社会の動揺も招きかねないだろう。
 
(香港ポスト編集部・江藤和輝)