2018年5月23日

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マハティール新内閣発足でマレーシアはどうなるか?

マハティール新内閣発足でマレーシアはどうなるか?

建国以来初の政権交代となったマレーシア。この連立政権はどんな人たちで構成され、何をしようとしているのか? マレーシア・国立サバ大学の大石幹夫准教授に解説してもらった。

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5月9日の連邦下院選挙で、建国以来61年で初めて政権交代を果たしたマレーシア。連立政権を支えるのは、人民正義党(議員数50名、多民族政党)、民主行動党(42名、多民族政党)、 統一プリブミ党(13名、マレー人主体の新党)、国民信頼党(11名、イスラム党から分離した「穏健派」による新党)の4党だ。
    
  
前政権の腐敗をなくす「大掃除内閣」
  
この政権の第一の目的は、 国家の私物化と金権腐敗の批判が強かったナジブ前政権の負の遺産の清算にある。いわば「大掃除内閣」である。
   
まずは、前政権を守ってきた汚職取締局、選挙管理委員会、検察局 の各トップを交代。前首相の関係者による「1MDB」大規模汚職疑惑の解明を行う。
  
6月からは消費税を0パーセントにすることがすでに決まった。フェイクニュース取締法、自由・人権を抑圧する諸法律は廃止される。さらに東海岸の高速鉄道など、大規模プロジェクトは見直される予定だ。
  
民意を反映し国益を守るための大幅な行政・経済改革も行われる。そのための具体的な提言を行うために、民間人5名からなる「賢人会議」も設置された。
  
5月21日、13名の新閣僚が就任宣誓式に臨んだ。マハティール首相自身は、すでに11日に国王により首相に任命されている。閣僚の割り振りは、各政党の獲得議席数に応じた配分ではなく、各政党ほぼ同数となった。 また、マレーシア連邦に遅れて加入したサバ州とサラワク州にも配慮して、それぞれの州の政党からの議員も追って閣僚に加える予定。
   
  
新内閣には、華人やインド系も入閣
  
マハティール首相以外の13名の新閣僚は以下の通り。
  
副首相兼女性・家族大臣は、ワン・アジザ・ワン・イスマイル氏(65歳、人民正義党、マレー系)。人民正義党党首。
  
総選挙直後に国王の恩赦で釈放されたアンワル・イブラヒム元副首相の妻で、夫の数次にわたる入獄中、彼に代わり人民正義党を率いた。眼科医だったが、アンワル氏の副首相への任命に伴い主婦業と社会活動に専念したが、夫の失脚に伴い政界入り。野党連合の指導者として夫の志を今日まで継続させた。
  
アンワル氏自身は、数年内にマハティール氏から首相の座を譲られることになっているものの、その間内閣に参加するかは未定。入閣のためには連邦下院議員になる必要があるが、そのためには現議員の誰かが辞職し、自らが補選で当選する必要がある。何れにせよ、国の大掃除にマハティール首相に辣腕を奮ってもらう間、自らは脇役に徹する意向のようだ。
  
財務大臣は、リム・グアンエン氏(55歳、民主行動党、華人系)。民主行動党書記長。ペナン州の前首相で、公認会計士資格を持つ元銀行員。過去10年間ペナン州政府を率い、ペナンの環境美化や州政府の効率向上などに多大の実績がある。1MDB汚職疑惑への対応、連邦政府財政の立て直しなど現在国が抱える大きな課題に取り組む。
  
内務大臣には、ムヒディン・ヤシン氏(71歳、統一プリブミ党、マレー系)。統一プリブミ党党首。マレーシア副首相など政府の要職を歴任したが、2016年8月に、当時の与党連合を主導していた統一マレー国民組織(UMNO)を離れ、マハティール氏とともに統一プリブミ党を結成。今回の選挙では、主にマレー人の間で野党連合の「希望連盟」への支持を広めた。
  
防衛大臣にはモハマド・サブ氏(63歳、国民信頼党、マレー系)。国民信頼党党首。「マット・サブ」の愛称で呼ばれ、単刀直入な語り方、クリーンでリベラル、庶民的な人柄から人気が高い。前政権の兵器購入を巡る疑惑の温床となった防衛機構の改革、綱紀粛正等に取り組む。
  
経済大臣には、アズミン・アリ氏(53歳、人民正義党、マレー系)。長らくアンワル氏の秘書として苦楽を共にしてきた。2014年9月からセランゴール州首相として、このマレーシアで最も豊かな州のさらなる経済・社会発展に力を注いできた。
 
教育大臣には、マズリー・マリク博士(44歳、統一プリブミ党、マレー系)。マレーシア国際イスラム大学助教授でイスラムによるガバナンスを専門とし、多民族・多文化・多宗教社会マレーシアにおける共存と寛容の必要を説いてきた。
   
農業大臣には、サラフディン・アユブ氏(56歳、国民信頼党、マレー系)。ジョホール州のマレー人村落出身。その経験が生かされることが期待されている。
  
交通大臣には、アンソニー・ローク氏(41歳、民主行動党、華人系)。州議会議員をへて2008年から連邦下院議員。断食明けのお祭りハリラヤ・プアサの時期を控え、道路上の安全の問題、2014年に失踪したマレーシア航空370便の問題への決着など優先課題に積極的に取り組むことになる。
  
保健大臣には、ズルキフリ・アフマド氏(62歳、国民信頼党、マレー系)。医師であるとともに社会活動家として、各種社会問題の解決に献身してきた。
 
人的資源大臣には、クラセガラン・ムルゲソン氏(60歳、民主行動党、インド系)。ゴム農園の労働者層出身で、弁護士さらに連邦下院議員として労働者の権利の拡充、インド系マレーシア人の地位向上に努めてきた。
   
住宅・地方大臣には、ズライダ・カマルディン氏(60歳、人民正義党、マレー系)。マレーシアの住宅事情の改善、特に貧困層の居住権の拡充に情熱を注ぐ。
  
地方開発大臣には、リナ・ハルン氏(44歳、統一プリブミ党、マレー系)。統一マレー国民組織(UMNO)の女性局長だったが、マハティール氏による統一プリブミ党の結成に参加。今回の選挙ではUMNOの大物議員を破って初当選。
  
情報通信・マルチメディア大臣にはゴビンド・シン・デオ氏(44歳、民主行動党、インド系)。人権派の弁護士及び連邦下院議員として、国会内外で社会正義の実現のために奮闘。父親は、同じく著名な弁護士、連邦下院議員で法廷と国会での雄弁から「ジェルトンの虎」と言われたカルパル・シン氏。
  
内閣の顔ぶれを見て、これまでのマレーシアの内閣と大きく異なるのは、腐敗・汚職や社会的不正を強めていた前政権への反対勢力を担っていた人々だけに、弁護士、医師、学者など専門職及び社会活動家としての経歴を持つ人々が多いことだ。
 
また、華人やインド系の割合も高くなっている。但し、首相を含む14名のうち女性は今のところ3名に止まる。希望連盟の公約の一つが、政策決定の権限をもつ人々の30%を女性にするということだっただけに、これから任命される女性閣僚の数に注目したい。
  
■(プロフィール)おおいし・みきお 
1990年代初頭から、マレーシア、ニュージーランド、ブルネイを拠点に主に東南アジアの紛争解決のための研究と教育と実践を行う。英国ブラッドフォード大学平和学博士。現在、マレーシア・サバ大学准教授。
  
ソース:http://www.malaysia-magazine.com/news/30937.html

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