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インドネシア:① 日本人鉄道マン奔走 8月大停電 MRT停止 乗客避難の舞台裏

インドネシア:① 日本人鉄道マン奔走 8月大停電 MRT停止 乗客避難の舞台裏

ジャカルタの大量高速鉄道(MRT)の営業開始から1日で半年。総乗客数は8月末で計1200万人を超え、当初の予想(約1千万人)を大幅に上回った。開業半年をめぐるさまざまな日本人の物語を報告する。

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【画像:吉田が乗客の避難誘導をした付近=ルバックブルス駅】

8月4日正午前。ジャワ島で広域停電が発生し、運行中のMRT7列車のうち4列車が駅間で立ち往生した。だが4列車の乗客3410人は約1時間で最寄り駅に避難。けが人はなかった。「職員が素晴らしい働きをした」。あるMRT幹部はそう話すが、この避難劇の陰で、日本人鉄道マンらが奔走していたことはあまり知られていない。
 
目の前のホームを定刻に出たばかりのMRTが急停止した。6両編成の最後尾、5、6号車がホームに残った形で止まっている。車内灯は消え、ホームのエスカレーターも止まったままだ。「停電だ」。当時、ルバックブルス駅ホームにいた日本コンサルタンツ技術本部の主任、吉田広和はすぐ、そう判断した。
 
吉田は2018年、同社にJR東日本から出向。同年ジャカルタに赴き、MRTを支援する「運営維持管理プロジェクト」(日本4社で構成)で乗員訓練に携わってきた。同日夕の便で帰国予定だったが、その前に指導した運転士の仕事ぶりを見ておこうと、同駅を訪れていた。
 
列車の乗客は車内に閉じ込められたままだった。ホームに駆け付けた駅員に身分を明かすと、手動で最後尾6号車のドアを開けて乗り込んだ。乗客がドアに殺到して混乱するのを防ぐため、そのドアを再度、閉じる。車内は冷房停止。「窓を開けてください。高温になる恐れがある」。約100メートル離れた運転席にたどり着くまで、乗客にそう訴え続けた。

運転席。「停電だ。復旧のめどが立たない。どうすればいいか」。困惑顔の運転士が聞く。MRTの運行を管理する指令室に無線連絡すると、「乗客の避難誘導を検討中。駅間で停止中の4列車の乗客は、最寄り駅への誘導を考えている」との返事が返ってきた。
 
06年にJR桜木町駅駅員となり、その後JR横浜線などで車掌、そして横須賀線などで7年間運転士を務めた男のアドバイスが始まった。「線路に降りる乗客の安全確保のため全列車停止を確認し、全てのパンタグラフも下ろす。避難はそれからだ」。パンタを下ろさないと電車はバッテリー切れを起こし、復旧時に正常に機能しない可能性があった。慧眼だった。
 
一方、吉田がいる列車には300人前後の乗客がおり、こちらの避難誘導も必要だった。避難で多くのドアを一度に開けるとこれもパニックを招く恐れがある。「誘導の際のドア開放は6号車の1カ所だけ」。そう判断した。運転士に車内放送を依頼すると、6号車でドアを開け乗客誘導を始める。ホームが満杯になることを防ぐため、乗客や見物人を階下に誘導するよう警備員に依頼もした。
 
乗客が粛々と避難を始めた。午後0時15分ごろ、運転席に指令室から連絡が入る。「全列車の停止とパンタ降下を確認。全区間で避難誘導中」。吉田の助言通りの動きだった。乗客らの避難を見届けた後、吉田は指令室に向かった。飛行機の出発時刻が迫っていたが、それに構っている場合ではなかった。

(本紙取材班、写真も)(敬称略=つづく/毎週掲載します)
 
ソース:https://www.jakartashimbun.com/free/detail/49665.html

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