2016年12月2日

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ドイツ年金問題が来秋選挙の争点に、企業負担増える恐れ

ドイツ年金問題が来秋選挙の争点に、企業負担増える恐れ

来年秋の連邦議会(下院)選挙で年金改革が大きな争点となる公算が高まってきた。少子高齢化を背景に公的年金の給付水準は低下傾向にあり市民の関心は高いものの、各党が選挙戦の目玉にすると有権者の歓心を買うために年金財政の大きな足かせとなる公約を打ち出しかねないことから、与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の3党はそうした事態を避けるために選挙戦がスタートする前に年金改革方針で合意を目指していた。だが、合意できたのは一部の方針にとどまったことから、中道左派のSPDはCDU/CSUから拒否された改革案を選挙戦の目玉にする意向を示唆している。公的年金は労使が折半する保険料と税収が財源となっているため、企業負担が中長期的に増える懸念がある。

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2013年に行われた前回の選挙では中道右派のCDU/CSUが1991年以前に生まれた子供の養育のために仕事ができなかった親(主に女性)の公的年金受給額を上乗せし、92年以後に子供が生まれた親との格差を是正する「母親年金」を公約に打ち出した。SPDも公的年金の保険料納付期間が計45年以上の被保険者について支給額の減額なしに年金を受給できる年齢を63歳に引き下げる政策案を提示して対抗。選挙の結果CDU/CSUとSPDの3党が政権を樹立することになったため、これらの政策はすべて実現され、年金財政の負担が膨らんだ。
 
3党は次回選挙で同じ轍を踏まないようにするために協議。24日のトップ会談で部分合意に至った。合意内容は(1)東部地区の年金水準を段階的に引き上げていき東西格差を25年に解消する(2)病気や怪我で仕事ができなくなった就労者に支給する障害年金を引き上げる――の2点(低所得者向けの企業年金ルールを導入することなどではトップ会談前に与党合意が成立済み)。
 
年金給付水準の低下緩和、SPDが提唱
 
だが、SPDは同合意に満足しておらず、同党のアンドレアス・ナーレス労働・社会相は翌25日、公的年金制度の独自改革案を発表した。同党の主要な支持者である中低所得層の多くが老後に不安を持ち、労働組合の圧力も強まっていることが背景にある。
 
具体的には少子高齢化の進展を受けて低下していく年金給付水準を一定レベル以下に落ち込まないようにすることを提唱した。
 
同給付水準の指標である所得代替率(税引き前ベースの平均収入に対する税引き前ベースの標準年金支給額の比率)は今年47.9%(暫定値)で、2000年の52.9%から5ポイント下落した。現行ルールを維持すると30年に44.3%、45年には41.7%まで低下する見通しで、貧困に転落する高齢者の増加を懸念する声がある。
 
同相はこれを踏まえ、所得代替率を45年まで46%以上に保つ考えを打ち出した。これに伴うコストを30年時点で年42億ユーロ、45年時点で同78億ユーロと見積もっている。
 
年金財政が今後、厳しくなるなかで給付水準を高く保つためには、保険料率と国庫負担を大幅に引き上げる必要がある。だが、国の財政支出に占める社会保障費の割合がすでに50%を超えるドイツで、年金国庫負担の大幅増につながる政策の余地はほとんどない。また、現在の18.7%の保険料率を大きく引き上げれば、現役世代の生活と企業の財務がともに強く圧迫される。
 
ナーレス社労相は同政策を国庫負担で賄い保険料率を45年まで25%未満に抑制する意向を示しているが、専門家は世代間の公正に反する不当な政策案とみている。ドイツ経済研究所(DIW)のマルツェル・フラッツシャー所長は、「選挙権を持たない若い世代からお金を奪い取ろうとしている」と批判した。
 
同相はまた、年金保険料を長年納付したにも関わらず年金支給額が生活保護費を下回るケースがあることを踏まえ、こうした事態をなくすために保険料を35年以上、納付した市民の年金支給額を生活保護費より10%高くすることを提唱した。長期的に年42億ユーロのコストが発生するとみている。財源については明言していない。
 
CSUは母親年金の支給額上乗せを求めている。選挙戦で有権者に強くアピールしていく可能性が高い。
 
ソース:http://fbc.de/sc/sc38999/

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