2016年6月23日

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ドゥテルテ政権でフィリピンはどう変わる? 政策から懸念まで総まとめ

ドゥテルテ政権でフィリピンはどう変わる? 政策から懸念まで総まとめ

これまでのコラムでは、ドゥテルテ氏の実績とその成功の理由を、市長時代の活動や噂話、また選挙期間中の発言等を中心に分析してきた。

(第1回)https://www.digima-news.com/20160613_5567

(第2回)https://www.digima-news.com/20160615_5646

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同氏の実行力、一貫性、話題性、市民との距離感など、表裏でアメとムチを使い分けるそのパフォーマンス力こそが、成功の理由であろうとの愚見も述べさせて頂いた。第3回目となる本稿では、これまでに発表されているドゥテルテ新政権の基本政策のまとめと懸念事項を中心に今後の動きを予想する。

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<経済政策に関して>
初めに、ドゥテルテ内閣で財務相に指名されたカルロス・ドミンゲス氏が、異例の速さで発表した8項目の経済政策指針を確認する。
 
1. 現行のミクロ経済政策の維持継続、国税庁及び関税局による税収改革
2. インフラ支出対GDP比率5%維持、官民連携主導によるインフラ整備の推進
3. 外資直接投資拡大、外資規制を規定する改憲及び法令の緩和
4. 農業効率性向上の推進、小規模農家支援、農業ビジネス連携推進
5. 土地登記機関の管理体制の改善、土地保有の安全性・確実性・担保性の向上
6. 産業界のニーズに応えるための初等教育変革、高等教育奨学金制度の拡充
7. 所得変動制税率、物価連動型税制導入などによる税制改革
8. 教育推進や健康を目的とした条件付現金給付プログラムの改善や拡充
 
上記8点はダバオ市の政策を踏襲しており、即効性が期待できる項目もある。
 
特に3番の外資規制緩和に関しては、アキノ政権が難色を示していたことから膠着状態であったが、マニラ首都圏における利権が絡みにくいドゥテルテ政権下で、一気に法改定が進む可能性がある。
 
しかし、上記はあくまで国内経済に関する政策であり、外交政策については明確な発表がされていない。この辺りが懸念事項ではあるが、これまでの閣僚からの発言や、ドゥテルテ氏自身の外交経験の薄さなどから、逆に外交政策に関しては大きな方向転換はないとの予測も可能である。
 
<連邦制への移行計画>
ドゥテルテ氏が任期中に行おうとしている最大の政策とも言えるのが、政治体制の連邦制移行であろう。同氏はダバオ市長時代から首都圏のみに権力と富が集中する現状を批判し、地方分権化の必要性を訴えてきた。連邦制への移行には改憲が必要となるため、2019年の議会中間選挙までに改憲草案をまとめ、その後連邦制の具体案を策定する予定であるという。実は、この連邦制移行への手始めだとされるのが、次項で述べさせて頂く閣僚の抜擢である。閣僚たちの出身地を見ていけば、フィリピン全土、特に中部以南の出身者を中心に組閣を行っていることが見て取れる。
 
<閣僚の顔ぶれ>
6月30日の大統領就任を目前に控え、ほぼすべての閣僚メンバーが決定された。しかし先日17日に、これまで大統領の最新情報を扱う機関や報道メディアを統轄する立場であった「大統領報道担当官」の設置取りやめを突如発表するなど、就任までは何が起こるか分からない状況である。
 
さて内閣の構成だが、前述のとおりフィリピン中部やミンダナオ地区の出身者を中心に組閣が行われており、これが地方分権化の足がかりになると言えるだろう。ここで着目すべきは、左派政党代表者の登用や、過激派が頻繁に活動するとされるコタバト州の元州知事の入閣、さらに2008年に大量虐殺事件が発生したマギンダナオ地域出身者を国防大臣に据えるなど、治安維持を重視した布陣となっていることである。
 
また、副大統領を初め、女性の起用も目立つ組閣ではあるが、ドゥテルテ氏は当選直後から、女性の意見を積極的に取り入れ、バランスの取れた政府にしたいとの発言をしている。ただしこれは、選挙中の女性蔑視発言問題などを払拭するための「パフォーマンス」だとも考えられることを付言しておく。
 
<犯罪撲滅計画>
ドゥテルテ氏は就任後3~6ヶ月でフィリピンから犯罪を激減させると断言している。犯罪撲滅計画のために、まず警察力の増強を実施するいう。また、警察組織内部の汚職が犯罪増加、違法ドラッグの問題を助長しているとして、3年以内に警察官の給与改善を行うとも述べた。
 
更に、監視カメラの設置などの技術導入による犯罪防止策、特別刑事裁判所の設置による裁判の高速化、死刑制度の復活などについても触れており、犯罪防止には緩急剛柔織り交ぜた「ダバオ型」の政策を行うことが予想される。懸念点として、警察力の過剰による冤罪被害や人権侵害、フィリピンに対する国際世論の悪化などが挙げられるが、荒療治の副作用は想像に難くない。
 
<禁煙・禁酒条例>
ドゥテルテ氏は選挙後のインタービューで、午前1時以降の飲酒禁止条例を定める意向を示した。また、公共の場所での禁煙条例も計画しており、レストランやオフィスなどの閉鎖空間での喫煙を禁止するとも述べた。副流煙による周囲の健康被害や、深夜までの飲酒による労働生産性の低下を食い止める、などの理由を上げている。これらの規制による同産業の緩やかな縮小、酒税・たばこ税減額防止のための商品単価値上げなどが予想される。
 
<人口政策>
選挙後、「ドゥテルテ氏が人口爆発の抑制政策として子供を3人までに規制する」、との新聞報道があった。しかしこれについては本人から、制度策定を行うということではなく、あくまで推奨するだけであり、そのような家族計画を政府から押し付ける気はない、との発言があった。
 
<銃火器規制>
ドゥテルテ氏は民間人による武装集団の形成を抑止する考えを示している。特に重火器に関しては一般人へのライセンス発行を禁止し、ライフル、ショットガン、短銃許可に制限するとみられる。
 
<役所の許可手続きの簡易化、効率化>
フィリピンの役所では利用者が長時間列を作って待たされる状況を頻繁に目にするが、ドゥテルテ氏はこういったムダを徹底的に排除すると公言している。例えば現状では、営業許可証の発行には6つのステップが存在し、手続き終了に8日間を要する。これを、全ての役所に関して、許可書・証明書の発行が72時間以内に行える仕組みに改変するという。ダバオ市では同様の施策がすでに導入されている。
 
<大統領府移転?>
ドゥテルテ氏はマニラ首都圏に権限が集中している現状をかねてから批判してきたが、大統領府がマニラにある以上、ある程度の中央集権化は避けられない。フィリピンでは今だに政治家と利権との結びつきが非常に強く、これまでにも公共事業の請負業者が突然総入れ替えになったというケースは数限りない。
 
しかしながら、ドゥテルテ氏が唱える「連邦制・地方分権化」が完了した暁には、中央の政権と地方の利権が分断しやすくなることから、公共事業、インフラ開発などが安定し、長期の経済成長も期待できる。そして、現在噂されるダバオ大統領府の設置が実現すれば、地方分権化への動きが一気に加速することになるだろう。
 
ダバオ市パナカン地区には既に「南のマラカニアン宮殿」と呼ばれるドゥテルテ氏の仮の大統領オフィスが存在する。側近の発言によれば、現在当オフィスは6月30日の大統領就任に向けて、急ピッチで整備中であるという。ただし、この仮大統領府については、他にも、旧ダバオ空港が利用されるなどの説が出ており、詳しいことは明らかにされていない。
 
大統領府の移転は現実的ではないとする声も多く、マニラ・ダバオを往復しながら施政を強化していく可能性もある。場所選びに関して最も重要だとされる条件は安全面であるが、旧ダバオ空港は空軍、パナカン地区の建物は近くに海軍が在駐している。
 
<最大の懸念?>
最後に、国民は既に感じているであろう「口に出せない」最大の不安要素について、敢えて言及しておこうと思う。今回の政権交代は、大きな変革が期待される一方で、政治、経済、治安、外交など、あらゆる分野において懸念事項が山積している。しかしながら、それ以上の不安要素は「大統領暗殺」などによる大混乱の可能性である。
 
事実、今月10日には「ドゥテルテ次期大統領暗殺に懸賞金が掛けられた」とのニュース報道がフィリピン全国を駆け巡った。警察庁長官に内定したデラ・ロサ氏はインタビューで、麻薬組織が同氏とドゥテルテ氏に5000万ペソずつ(約1億1600万円)の懸賞金を掛けた、と語った。ドゥテルテ氏が「密売人は生死問わず」の報奨金を掛けたことに対して、麻薬組織が反撃したという。もはや漫画か映画のような事態であるが、これがフィリピンの現状である。
 
犯罪組織の問題みならず、経済、外交、治安、連邦制への移行など、就任後に待ち構えるあらゆる困難をどう打破してゆくのか、表裏の鉄拳パフォーマンスは続いていくのか、今後もドゥテルテ氏と新政権の動向を注視していきたい。
 
文・三宅一道(株式会社クリエイティブコネクションズ&コモンズ)
企業URL: http://cccjph.com/
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