2016年6月16日

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ドイツ・メルケル首相が中国を訪問、ダンピング問題について前進か

ドイツ・メルケル首相が中国を訪問、ダンピング問題について前進か

ドイツのメルケル首相は12~14日の3日間、中国を訪問した。訪中は9回目。13日に北京で開催された両国の第4回政府間協議では南シナ海での領有権をめぐる中国と周辺諸国の緊張の高まりなども話し合われたが、最大のテーマとなったのは経済問題で、特に欧州連合(EU)が中国を「市場経済国」として承認するかどうかが焦点となった。

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中国は2001年12月11日付で世界貿易機関(WTO)に加盟した。その際、自由な市場経済を重視する国である「市場経済国」の認定を受けることができなかった。このため各国は同国製品に対し簡単な手続きで反ダンピング税を課すことができる。
 
当時の合意ではWTO加盟の15年後に当たる今年12月に中国を市場経済国として認定することになっている。
 
だが、米国ではこれに反対する意見が強く、EUの欧州議会も5月、中国を自動的に市場経済国として認定すべきではないとする決議を圧倒的多数で採択した。EU加盟国の一部も同様の姿勢を示している。
 
中国側はこれに強く反発。国営新華社通信はメルケル首相の訪中前に、EUが市場経済国認定を拒否すれば通商戦争に発展するとけん制した。
 
EU内で市場経済国認定に否定的な見解が強い背景には、中国市場の成長鈍化を受けて安価な同国製品がEU市場に大量に流入していることがある。特に鉄鋼製品の供給過剰は域内産業に深刻な打撃を与えており、業界団体などは中国が市場経済国に昇格した場合、雇用に悪影響が出るとして認定に強く反対している。
 
中国市場での外資差別や知財権侵害が依然として横行していることも市場経済国認定のマイナス材料となっている。
 
在中国欧州商工会議所(中国欧盟商会=EUCCC=)が7日発表した加盟企業アンケート調査結果によると、中国事業を拡大するとの回答は47%にとどまり、13年調査の86%から39%も減少した。これまでの度重なる苦情にもかかわらず、中国が外資に対し事業合弁や技術移転、ローカルコンテント(外国メーカーに国内製部品の使用を義務づけること)を強要したり、政府入札への参加を制限していることが大きな要因となっている。
 
中国の李克強首相は14年秋に行われたドイツとの第3回政府間協議で、市場開放を推進していると述べ改善に努めている姿勢を強調したが、“口約束”以上のものではなかったようだ。
 
メルケル首相は今回、中国を市場経済国として承認するとした「約束」を反故にする考えはないと明言するとともに、中国側も鉄鋼その他の産業で構造改革を進め、ダンピングを行わないようにすることが大切だと述べ、対応を促した。
 
<シーメンスはクーカ買収の考えなし>
 
今回の訪中では、中国の家電大手・美的集団が独ロボット大手クーカに対する株式公開買い付け(TOB)で出資比率を30%超に引き上げようとしていることも大きなテーマとなった。クーカはドイツの産学官が一体となって推し進める「インダストリー4.0」の中核的な企業の1社であるためで、技術・情報流出が懸念されている。
 
情報流出への懸念は自動車などロボットを使う産業で特に強い。工場で用いられるロボットでは大量のデータが処理されるためだ。

経済の近代化に向けて中国企業による欧米の最先端企業買収の動きが最近にわかに活発化していることも大きな懸念材料で、クーカは中国勢による独企業買収の大波の始まりに過ぎないとの見方もある。
 
メルケル首相はこれを踏まえ、ドイツは外資に対し開かれた市場経済国であり、「クーカへの資本参加を誰も禁じることはできない」が、中国はそうなっていないと述べ不平等な現状を批判した。
 
クーカに対する美的集団の買収提示額は水準が高く、TOBを実施すれば美的集団は50%超を確保し経営権を掌握する可能性が高い。独政府はそうした事態を阻止したい考えだが、打つ手がないのが実情だ。『フランクフルター・アルゲマイネ』紙によると、メルケル首相は電機大手のシーメンスにクーカ買収を打診したもようが、同社のケーザー社長は12日、その考えはないことを明言した。
 
ドイツの貿易法にはEU域外の企業が独企業の資本25%超を取得することを禁止・制限できるとの規定がある。ただ、適用対象となるのは安全保障の関する企業に限られるため、クーカを対象とすることは法律の拡大解釈となり、政府は同規定に基づく審査権を発動できないとしている。
 
photo by dullhunk on flickr

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